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2026.05.13

【コラム】原油価格高騰が介護分野に及ぼす影響を考える

はじめに

最近、原油価格の上昇がニュースで多く取り上げられています。
輸送経路の要衝であるホルムズ海峡の動きなど中東情勢の緊張を背景に、エネルギー供給への影響が懸念されています。
日本はエネルギーの多くを海外に依存しているため、この問題は私たちの生活にも直結します。
電気代やガソリン価格の上昇はすでに身近な問題となっていますが、一方で、福祉や医療といった分野への影響はあまり注目されていません。
本コラムでは、原油価格の高騰が福祉にどのような影響を与えるのかを考えます。

【目次】
日本のエネルギー自給率について
石油価格が上昇すると国内はどのような影響がでるのか
介護分野への影響を推測する
日本政府の対応
まとめ

 

日本のエネルギー自給率について

エネルギー自給率とは、わたしたちの生活や経済活動に使用される電気やガス、ガソリンなどの一次エネルギーをどれくらい自国で産出・確保できているのかを示す比率のことです。
経済産業省が管轄する資源エネルギー庁によると、日本の一次エネルギー自給率は2022年時点で12.6%と、OECD諸国(経済協力開発機構加盟国)の中でもかなり低い水準となっています。(図1)
特に、今回のテーマでもある「原油」は、約99.7%を輸入に頼っており、その多くを中東地域に依存しています。(図2)
資源が乏しい日本にとってエネルギー資源の輸入は重要な生命線であるとも言えます。 原油は精製されてガソリンや灯油、プラスチックなどの製品になり、私たちの生活を支えています。

(図1)

 

(図2)

 

OECD(経済協力開発機構)
ヨーロッパ諸国を中心に日・米を含めた38ヶ国の先進国が加盟する国際機関。主に経済の動向や貿易、開発援助などの分析・検討を行う機関です。
参照:経済産業省「OECD(経済協力開発機構)」➚

(図1)(図2)参照:資源エネルギー庁「2024ー日本が抱えているエネルギー問題(前編)」➚

 

石油価格が上昇すると国内はどのような影響がでるのか

石油価格の上昇は国内のあらゆる産業へ影響を及ぼします。
まず思いつくのが輸送コストの増大です。普段なにげなく買い物をしている我々ですが、商品が棚に置かれるためには、ほとんどの製品がトラック運送や海上輸送を経るため、石油価格の上昇は確実に物流費を押し上げます。しかし影響はそれだけではありません。たとえば漁師さんが漁をするために利用する漁船の燃料も石油からできていますので、漁師さんの経営も圧迫し、その結果魚の卸値が上昇。食卓に並ぶ生鮮食品の価格に大きな影響を及ぼします。
石油価格の上昇は、物流コストや食料価格の上昇など、私たちの生活全体に影響を及ぼします。

 

介護分野への影響を推測する

では介護分野においてはどのような影響が考えられるのでしょうか。
介護の現場では「人が人をサポートする」印象が強く、一見すると石油価格とはあまり関係ないように思えます。しかし実際はエネルギーなしではとても立ち行かないのが介護現場の実情です。主に影響度が高いと思われるものを下記に挙げます。

  1. ガソリン価格の上昇による訪問介護・送迎の影響
    訪問介護やデイサービスにとって、車両での訪問や送迎といった車両の移動は、サービス提供の前提と言っても良いでしょう。この燃料費の上昇は移動コストを直接的に押し上げます。特に地方にある施設では移動距離が長い傾向にあるため、経営への打撃はより大きなものになります。
  2. 石油製品で作られている介護用品の価格影響
    「石油=エネルギー」と発想しがちですが、介護現場におけるもうひとつのリスクは「石油が製品を作る素材になる」という点にあります。最近よく耳にする「ナフサ」もそのひとつで、プラスチックなどの原料になっています。
    介護現場で使用する石油を含む介護用品はたくさんあります。介護用おむつ、尿パッド、使い捨て手袋(グローブ)やマスクなど多岐にわたり、大きなものになると介護用ベッドの部品やプラスチック製の杖などにも石油は使用されています。これらの介護用品においても販売価格に影響を及ぼします。
  3. 介護用品の供給停止の可能性
    昨今の世界情勢の中でも、原油をめぐる貿易摩擦は深刻化しており、輸送ルートの混乱や輸入制限などによって、日本への原油供給が不安定になる可能性があります。
    その結果、石油を原料とする介護用品の生産にも影響が及ぶことが考えられます。
    介護用品の多くは代替が効かないため、供給不足が起きた場合、介護サービスの継続に支障をきたす恐れがあります。
    これは最も懸念すべきリスクのひとつと言っても過言ではないでしょう。

 

日本政府の対応

今回のような事態に対し、日本政府はいくつかの対策を打ち出しています。

  1. 国家備蓄原油の放出
    日本政府は、2026年3月24日に大規模な国家備蓄原油の放出を決定しています。(※1)
    これは、国内におけるガソリンや灯油、そして石油製品(介護用おむつや使い捨てグローブなど)の供給が止まらないように「資金」ではなく「物資」の市場供給というシンプルで効果的な対策を実施しています。
    国内11ヶ所の備蓄基地から2026年3月26日より順次放出を開始しています。当面1ヶ月分の放出としていて、放出予定総量は約850万klとなっています。
  2. 緊急的激変緩和措置の実施
    原油の調達が困難になり、価格が上昇していく中で、ガソリンや軽油などの価格上昇を抑制すべく補助金を継続。国民の日常生活の安定化だけでなく、物流コストの爆発的な上昇を防ぐことで「物が届かない」という物流麻痺を食い止める役割を含めて対策を講じています。
    具体的には、現在の燃料油補助金残高を活用し、ガソリンについては170円/L程度を超える見通しになった場合にその水準を超えないよう補助を行うというものです。(※2)

(※1)参考:経済産業省「国家備蓄原油の放出を行います」➚
(※2)参考:経済産業省「イラン情勢を踏まえた緊急的激変緩和措置について」➚

 

まとめ

先にも述べた通り、最も危惧すべきは介護現場の生命線でもある介護用品の供給不足、さらには供給停止です。ケアに直接影響を及ぼす事案だということを改めて痛感しました。
現在、政府による原油備蓄放出などの対策は実行されていますが、エネルギー分野において国際情勢に大きく左右される現状は、日本が抱える脆弱性そのものと言うことができます。
国際情勢に左右されない強固な基盤を持つことが理想ですが、資源に乏しい日本にとって、それは極めてハードルの高い目標と言わざるを得ません。

エネルギーと介護は密接に関わっています。

今後は制度だけでなく、無駄のない消耗品の使用といった現場レベルでの工夫も重要になっていくでしょう。一人ひとりの積み重ねが将来へのリスクへの備えにつながるといえます。